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『SFマガジン』1999年11月号
SF MAGAZINE vol、521 |
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SF BOOK SCOPE /JAPAN |
1、我孫子竹 武丸、『屍蝋の街』、双葉社
2、殿谷みな子、『鬼の腕』、れんが書房新社
3、高千穂 遙、『天使の悪戯』、ハヤカワ文庫
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我孫子武丸の『屍蝋の街』を読みながら、いろいろなことを考えた。
そのことは後に述べることにして、先に『腐食の街』と『屍蝋の街』について記そ
う。
本書『屍蝋の街』は近未来(二〇二四年)の東京を舞台にした『腐食の街』(単行本
一九九五年)の続編である。一応、ここで『腐食の街』から『屍蝋の街』へつづくスト
ーリーを紹介しておく。
上野署に勤務する溝口警部補は、かって相棒の命と引き替えに連続殺人鬼「ドク」こ
と菅野礼也を逮捕した。菅野は死刑になり、平和な日常が戻ったある夜、溝口は路上で
ストリー・ギャングからリンチを受けようとしていた少年を救った。シンバと名乗る美
貌の少年は、この時代《ネコ》と呼ばれる男娼であった。
傷ついたシンバを帯同して部屋に戻った溝口に上司から連絡が入り、ドクとそっくり
な手口で殺人事件があり、犯人と思われる男は自殺、女性の死体の側には溝口への復習
を宣言するメモがあったという。
そのメモは筆跡鑑定の結果、ドクこと菅野の筆跡と特定され、その後も連続殺人鬼
「ドク」の仕業としか思えない手口で、犯人らしき男が自殺するという事件がつづき、
被害者の側には必ず溝口へのメッセージが残されていた。
やがて、溝口はシンバの協力で、この事件に意識を音と映像でリラックスあるいは高
揚させるブレイン・スパ(ヘッドマウトゴーグルを付け、頭から足先までを支える肘掛
け付きの寝椅子状の機械)が関連していることをつきとめる。ブレイン・スパには様々
なソフトが存在しており、この連続殺人事件はドクの意識を封じ込めたデーターディス
クがばらまかれた結果だったのだ。これが『腐食の街』のストーリーである。
そして『屍蝋の街』では、溝口は赤羽署への転属を命ぜられ、シンバとともに赤羽に
居住を移しているが、ある日から若者達の襲撃を受けることになる。襲ってきたのはネ
ットワーク上に存在する仮想都市ピットの熱狂的なユザー達だった。何者かがピットにおいて溝口とシンバを残虐な犯罪者に創りあげた上で、現実と仮想空間の両方で賞金をかけたのだ。そして、それは溝口に協力する人間にも拡大されていく。
やがて、この大規模なマン・ハントの背後にブレイン・スパに関係する人間がい
ることを突止めた溝口達は、かってシンバの客だったハッカー・早川の協力で反撃を開
始する。
ストーリーの紹介がいささか長くなってしまったが、近未来小説において、もっとも
重要なのは、そこに描かれる日常である。言い換えれば、作中で描かれるテクノロジー
の進歩とルーティンな日常との折り合いの付け方である。それが周到に設定され、充分
に描かれていて、はじめて近未来小説となり得るのだ。そのことにおいて、主人公であ
る溝口の一人称で語られるこの二作は、シンバへの愛とアイディンティティの揺らぎに
悩む主人公を描いた優れたハードボイルド小説であり、紛れもない近未来小説である。
殿谷みな子の『鬼の腕』は、九〇年から九八年の間に本誌『SFマガジン』に発表さ
れた幻想的でほろ苦い八篇を収録した短篇集。 ストーリーは様々だが、いずれも普通
の 暮らしのごく近いところにある、現実と幻想が接近する瞬間を鮮やかに描き出してい
る。日々の暮らしの諦念と澱を描きながら、それに埋没しない決意を描いた「空ガ墜チ
テクル」と「宇宙からの光」の二作がいい。
高千穂遙の『天使の悪戯』は、過激なエンターテイメント文体で描かれる「ダーティ
ペアFLASH」の三作目。本書ではユリとケイのコンビが、いよいよ専用宇宙船ラブリーエ
ンゼルに乗り込む(飛行訓練だが)エピソードが登場したり、二人のペットのゴンタの
本当の姿が明らかになる。いよいよ役者が出そろった次巻からの展開が待ち遠しい。
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