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1999年 |
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『SFマガジン』1999年8月号掲載。
SF MAGAZINE vol.518 |
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SF BOOK SCOPE /JAPAN |
牧野 修、『偏執の芳香』、アスペクト、本体1800円
大原まり子、『みつめる女』、廣済堂文庫、本体495円
谷 甲州、『ヴァレリア・ファイル(上・下)』、上・下とも本体1200円
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牧野修の長篇『偏執の芳香』は、不思議な感触を持った小説だった。
ノンフィクションライターの八辻由紀子は、友人の雑誌編集者・小来栖久子の依頼で
《コンタクティー》の取材を開始した。夫の暴力から子供を連れて離婚した由紀子は、
多少気に染まぬ仕事も引き受けざるを得なかったのだ。やがて久子の紹介で知り合った
超常現象研究家・瀬野邦生の事務所で、コンタクティー達を取材した頃から、由紀子の
周囲に異常な人間達が出没するようになる。いっぽう、今世紀初頭、師である哲学者・ソシュールの依頼でデリーを訪ねた学生が遭遇した超常現象から始まるストーリーは、由紀子のストーリーへと徐々に接近して行く。
本書を読みながら、時に身震いしたくなるような場面(いわゆる電波系と呼ばれ
る人々の言動が怖い)や、多くの謎を携えたまま進行するストーリーに現実が・崩壊・
というより・変容して流れ出す・ような感覚を覚えた。
本書を読み終えた今でもその印象は変わらない。それはストーリーに二つの不思議な物語が絡み合う構成にもあるし、それぞれで描かれるディテールの異様な緻密さ、そして一見合理的に解決されたかに見えるラストに、次なる物語の始動を感じさせる本書の余韻に読み手としての評者が絡め取られたままのせいだろうか。それとも、狂気と正気の狭間で、現実の変容に流される由紀子の姿にシンクロしてしまったのか。
本書のタイトルにもうたわれている〈芳香〉は、目に見えず、個人の感性によって差
異のあるものだけに、これをテーマやモチーフにしたものとしては、トム・ロビンスの
『香水ジルバ』や原田宗典『スメル男』などを思いつく程度だ。おそらく、本書の続編
以降で展開される〈芳香〉によって世界を理解し、認識する小説を期待したい。
大原まり子の最新短篇集『みつめる女』には、八十八年から九十九年の間に発表され
た七篇が収録されている。評者には『変身<異形コレクション3>』、『SFバカ本
だるま篇』、『カサブランカ革命
百合小説の誘惑』に発表された三篇が概読、「エル ・ジャポン」や「ポパイ」などに発表されたと四篇が未読という状態であった。
本書を通読して感じるのは作者のエネルギッシュな姿勢である。本書は古事記を大原
流解釈で書き直した「NAMELESS LAND」、男のいなくなった未来世界を描く「ハンサムガール、ビューティフルボーイ」、現代の女性作家の妄想という設定の「花モ嵐モ」、と
バラェティに富み、かつエネルギッシュな作品が収録されている。特に「花モ嵐モ」で
は作者のジョージ・マイケル(あっ、バラしちゃった)への過剰なオマージュがあふれ
出し、圧倒される。
収録作中、評者がもっとも好きな「妖怪デパート」は、都心のデパートという高度消
費社会の先端でありながら、妖怪さえも共生する職場における男対女・女対女を描いた
極めて洗練された都会小説であり、<性愛を排除しない現代小説>の傑作。
谷甲州の『ヴァレリア・ファイル』は、以前、角川書店から刊行(一九八七年〜一九
九〇年)されていた文庫全五冊に加筆・訂正を加え、上・下巻に再編したものだ。
近未来を舞台にした本書は、かつての最先端電脳都市アストリアのジャンク・データ
ベースから有用情報を掘り起こして売る「マイナー」である若者=MK(松山昴)が主
人公。
彼が或る日発見したファイル「ヴァレリア」は、彼を脱走サイボーグ美女ヴァ レリアと暴走電脳少女レティや、アウトロービジネスマンのジョーズとの出会いへと導
き、やがて連合宇宙軍情報部と軍需産業の癒着の闇へと引き摺り込むことになる。二段
組、総頁数九〇〇頁に迫る長篇ながら、登場するキャラクターの活きの良さで、一気に
読める快作だ。
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