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2002年 |
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1999年 |
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『SFマガジン』2002年1月号掲載
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SF BOOKSCOPE JAPAN |
1)藤崎慎吾『蛍女(ルビ:ほたるめ)』朝日ソノラマ
2)山川健一『ジーンリッチの復讐』
3)文・夢枕獏 絵・村上豊『陰陽師 瘤取り晴明』文藝春秋
4)松尾由美『銀杏坂』
5)椎名誠『飛ぶ男、噛む女』
6)奥泉光『坊ちゃん忍者 幕末見聞録』
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未来の火星を舞台に、テラフォーミングや生命考古学、人工知能などの大きなアイデアを巧みな構成と新鮮な筆致で描いたデビュー作『クリスタルサイレンス』で、SFファンの注目を集めた藤崎慎吾の長篇第二作『蛍女(ルビ:ほたるめ)』は、一転して舞台をほぼ現在の日本を舞台にしたもので、前作とは趣の異なる印象。
コンピュター関連雑誌の編集者池澤は、首都圏郊外にある武持山の麓にある山村で子供時代を過ごした。現在は仕事の合間に武持山周辺の森を歩き回ることを楽しみにしている。ある週末いつものように森を散策していた池澤は、閉鎖されたキャンプ場にうち捨てられたピンク電話にかかってきた電話を受けたことから不思議な事件に巻き込まれる。池澤への電話は、かって〈山ノ神〉と〈人間〉の仲立ちをした伝説の巫女〈蛍女〉からのもので、山を破壊するリゾート開発への警鐘であった。
本書は無理な開発や過疎で荒廃する首都圏近郊の自然を舞台にしたパニックホラー風なストーリーを軸にしながら、生態系ネットワークによる超自然知性という設定や甘く切ない幻想的や叙情が渾然一体となり読み応えのある作品になっている。
山川健一の『ジーンリッチの復讐』は、人工生命や文化的遺伝子にインスピレーションを得た著者が近未来を舞台に一気に書き上げた長篇小説。ストーリーは経済的に疲弊した世界を舞台にジーンリッチと呼ばれる遺伝子改良種である少年のアイディンティティ探求の物語だ。ネットワークゲームやクローンや人工知能などSF的なガジェットと超科学な設定が混在した物語には熱気があり読み手を惹きつける力がある。
ただ著者がSFプローパー作家でないため、内外のSFを読み込んでいる読者には既読作品との類似を感じる部分があるかもしれない。
夢枕獏の「陰陽師シリーズ」は、平安時代の陰陽師・安倍晴明と天皇の外戚で管弦の達人・源博雅を主人公に八六年にスタートし、岡野玲子によるコミック化を経て、二〇〇一年にはテレビドラマ化と映画化される大ヒットシリーズになった。
シリーズ最新刊『陰陽師 瘤取り晴明』は、村上豊による何とも魅力的な絵をフィチャーした絵物語での登場である。タイトル通り「瘤取り爺さん」を下敷きにしたストーリーなのだが、著者の手によって晴明&博雅の名コンビが何とも愉快でありなが怖ろしい事件に巻き込まれる中篇になっている。いい物語をいい文章と絵で読むという快楽を再発見させてくれる一冊だ。
松尾由美の『銀杏坂』は、金沢を連想させる北陸の古都を舞台にした連作短篇集。主人公の中年刑事が幽霊や幽体離脱、念動力などが実在しなければ不可能な犯罪やできごとにに遭遇するという構成で、本書には五編が収録されている。
冒頭で幽霊が絡む盗難事件を見事に解決した主人公には、次々に怪事件が持ち込まれることになる。地に足の着いた古都での暮らしをベースに、人の心に芽生える哀しみを怪異譚とミステリで鮮やかに描きあげた著者の筆力に圧倒される。
椎名誠の『飛ぶ男、噛む女』は、暗くエロチックな連作短篇集。作家である男が、かって中国の奥地で出会った女との情事の記憶に翻弄される姿を描きながら、その背後には〈死〉を内包した飛翔と墜落のイメージが寄り添う構成になっていて、性の深淵をのぞき見るような緊張感に溢れている。
奥泉光の『坊ちゃん忍者 幕末見聞録』は、夏目漱石『我が輩は猫である』をスピンさせた異色SF『我が輩は猫である殺人事件』につづく漱石へのオマージュに満ちた第二弾。こちらは言うまでもなく『坊っちゃん』から生まれた怪作である。何しろ本書の舞台は幕末。主人公の松吉は江戸っ子ではなく出羽庄内藩生まれの忍者なのだ。
ストーリーは、その坊ちゃん忍者・松吉が風雲急を告げる京都へ上り、そこでの沖田総司や坂本龍馬など、幕末の英雄達との出会いを描くというもの。新聞連載のためか結末が尻切れトンボの印象がある。
うーん、つづきが読みたい。珍しいユーモア歴史ファタジーとしてお薦めである。 |
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