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1999年 |
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『SFマガジン』1999年4月号掲載。
SF MAGAZINE vol.514 |
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SF BOOK SCOPE /JAPAN |
ヤング、ムーアなど懐かしいSF短篇を思わせる
岡本賢一の好作品集
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今回は、まず昨年の年末に出た岡本賢一の『鍋が笑う』を紹介しよう。
本書はSF同人誌『宇宙塵』に掲載され、作者のデビューのきっかけとなった「鍋が笑う」を筆頭に「背中の女」、書き下ろしの「リアの森」を収録して、ロバート・F・ヤング、C・L・ムーアなどの懐かしいSF短篇の匂いのする短篇集。
まず、加藤洋之+後藤啓介の洗練されたイラストレーションが多数添えられる。SF童話といった趣のある「鍋が笑う」がいい。舞台は未来。株式会社オガミのアマズ係長代理は、ある日農業中心の旧型植民惑星に輸出された自社製鍋の回収を命じられた。子細を知らされていないアマズは、鍋たちを回収するうちに、鍋たちが不思議な力で人々を助け、慈しみ、暮らしていることを知る。やがて、アマズに鍋たちを破棄消滅船に乗せるようにとの指令が届くが……。
一攫千金を狙って危険な生物島に潜入する男と、案内役として彼の背に食い込んだ蠱
の交感を描いた「背中の女」は男と女、親と子の根元的な意味を問いかける傑作。
衰退した社会を舞台に少年と少女の出会いを描いた書き下ろしの「リアの森」は、神
話的な結末でO・スコッカードを思わせる好篇だ。
充実した作品がつづく篠田節子の『レクレエム』は、現代を舞台にした光と闇を描い
た六篇を収録した傑作短篇集。
巨大な宗教団体の幹部だった伯父の遺言から、戦中戦後を貫く悲劇が露わになる表題
作「レクレエム」。幼児虐と家族の闇を扱った「コンクリートの巣」。余命わずかな夫
との旅を印象的に描く「彼岸の風景」など、いずれも死と愛とエロスが色濃く匂い立つ
好篇揃いだ。本書で興味深いのは、作品によって表層に顕れていたり、底流にあったり
の違いはあるが、いずれにも経済という現代生活に欠かせないファクターが加わっていることだ。特に、ありふれた女性が死を決意して訪れたホテルで垣間見た異界の風景に導かれて辿る不思議な人生描いた「ニライカナイ」は、経済を前面
に出したことで、神話的なストーリーに寓意性が付加されている。螺旋状に上昇して、やがて破綻する日本の経済と、その軌跡をなぞるような彼女の人生には、短篇ながら長篇を読むような重厚さがある。
そして、傑作揃いの本書の中で評者がもっとも印象に残ったのが「帰還兵の休日」である。住宅販売会社に勤務する菅本は、マンションの販売不振から生活のレベルは下がる一方であるが、かってのバブル経済の絶頂期が忘れられない。若くして、未来の成功ではな
く、過去の絶頂期に戻ることを願う菅本の姿がやるせない。この短篇で、もっとも印象
深いのは、菅本が川の中州に暮らす三人の老女と知り合い、月夜に彼女たちの口から華
麗な過去を聴く幻想的な場面である。現代社会に生きる人間の悲しさ、愚かしさ、そし
て美しさが重層的に浮かび上がる。
笙野頼子の作品が相次いで出版された。『時ノアゲアシ取リ』と『説教師カニバット
と百人の危ない美女』である。
窯変小説集と名付けられた短篇集『時ノアゲアシ取リ』には、作家である主人公の日
常が過激にズレていく様を描いた十篇が収録されている。一方、『説教師カニバットと
百人の危ない美女』は、猫と暮らす作家八百木千本が巻き込まれたとんでもない霊的災
厄を描いた長篇。彼女は墓地で結婚願望ばかりが発達した異端の女性集団であり、かっ
ては一万人の会員を擁した「こばと会」の残党と接点をもってしまった為に、霊的な攻
撃を受けることになる。FAXを通じて果てしなくつづく攻撃は、ブス小説を書く彼女
の容貌についての罵倒であり、結婚への妄想であった。彼女らの過激な妄想を表現する
文体の迫力に圧倒される。
昨年暮れに出版された『星新一
ショートショート1001』は、故星新一のショー ト・ショート作品を網羅したもので、本書にはデビュー作となった「セキストラ」か
ら、星新一が生涯に生み出した一〇四二編(単行本未収録作品六篇含む)のショートシ
ョートが上製本三冊に収録されている。本書は星新一の透明な世界をゆっくりとたっぷ
りと楽しめる貴重な企画だ。
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岡本賢一: |
『鍋が笑う』、朝日ソノラマ |
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篠田節子: |
『レクレイム』、文藝春秋 |
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笙野頼子: |
『笙野頼子窯変小説集 時ノアゲアシ取リ』 |
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『説教師カニバットと百人の危ない美女』 |
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星 新一: |
『ショートショート1001』、新潮社 |
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