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1999年 |
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『SFマガジン』2000年2月号掲載
SF MAGAZINE vol.525/02/2000 |
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SF BOOK SCOPE /JAPAN |
牧野 修、『忌まわしい匣』、集英社、本体1900円
椎名 誠、『問題温泉』、文藝春秋、本体1429円
原 宏一、『床下仙人』、祥伝社、1600円
井上雅彦・監修、『異形コレクション13 俳優』、廣済堂文庫、本体762円
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今回取り上げるのは、たまたまなのだが全て短編集である。ホラー短篇集であった
り、ユーモア短編集であったりと、ジャンルや表書きは様々だが、いずれも楽しく読め
る佳作揃いだ。
牧野修の『忌まわしい匣』は、快調に出版がつづく「異形コレクション」を筆頭に本 誌<SFマガジン>、『小説すばる』などに発表された様々な短篇に、書き下ろしの「忌まわしい匣1」「忌まわしい匣2」「忌まわしい匣3」を加えることで、有機的に 繋げようと試みた作品集。 電波系ホラーとでも名付けたくなるほど粘っこく書き込まれた描写、それまで信じていた現実が崩壊してゆく不気味さ、登場人物の目を通して読み手に迫る狂気と恐怖、等
々、牧野ワールドを俯瞰するのには絶交の一冊だ。
ただし、評者には本書収録のいくつかの短篇には生理的に苦手なものがあるため、個 人的な好みでベスト3を選ぶと、不可思議な論理で罰を与える殺伐機械が登場する「罪と罰の機械」、老いさらばえてしまった戦士の戦いを描いた「翁戦記」、オカルトを批 判するライターが巻き込まれた恐怖を描く「<非・・知>工場」、というようにSF味の濃いものになる。
また「電波大戦」は、ブラックなパロディとして秀逸だ。
椎名誠の『問題温泉』は、日常がホンの少し不可思議な方向に変化する(した)世界 に紛れ込んだ「おれ」を描く、シーナ・ワールド全開の短篇集。収録作品はいずれも小
説誌に発表された様々な傾向のものを取り混ぜてあるが、いくつかの偶然が重なって、 妻子のある小柄なサラリーマンが巨大化してゆく「考える巨人」、某国から日本海側に打ち込まれたミサイルをめぐるドタバタを描いた「ブリキの領袖」、なつかしSF短篇の味わいがある「三角州」の三篇がいい。
他にも少年期への郷愁を誘う「じやまんの螺旋」、男女間の不思議を垣間見られる「料理女」と、バラェティ豊かで楽しめる。
紹介するタイミングが遅れてしまったが、原宏一の『床下仙人』もユーモラスでいな がら奇想満載の短篇小説集だ。帯にも「筒井康隆、椎名誠、清水義範の流れを汲む笑いの鬼才」と書かれているが、確かにその資格はある。
デビュー短篇集『かつどん協議会』でも、そうだったのだが、原宏一には筒井康隆的 な疑似イベントものに佳作が多いように思える。本書収録作でも、女性住人の多いマンションに住むTVディレクターが、海外ロケから帰国した途端、マンションの管理組合が起こした対男性中心社会への闘争に巻き込まれる「戦争管理組合」がそうだ。
また、仕事人間や会社人間の喜劇的悲劇を描く「床下仙人」、「てんぷら社員」、 「派遣社長」からは、清水義範作品に近いユーモアとペーソスが感じられる。シュールなほどに仕事や会社に振り回される日本人の姿こそ、原宏一にとっては、かっこうのネ タになってしまうのだ。すでに長篇も何作か発表している原宏一だが、今後の活躍に期待したい作家の一人だ。
本書収録作では前述した「戦争管理組合」と電子情報社会の盲点をついた「てんぷら社員」が強く印象に残った。
井上雅彦・監修の『異形コレクション13 俳優』を堪能した。例によって多数の作 家が寄稿しているが、菊地秀行の「化粧」の幻想味、友成純一の皮肉なアクション・ホラー「黄昏のゾンビ」、朝松健の重厚な時代劇ホラー「小面曾我放下敵討」は、読みご たえがあった。しかし、個人的には何と言っても、再び春岳や春浪に出会える、横田順
彌の「飛胡蝶」である。当時の最新風俗である映画女優をモチーフにした作中作のストーリーと、晩年が近い春浪をめぐるパートの静かな余韻がなんともいいのだ。
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