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1999年 |
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『SFマガジン』1999年2月号掲載。
SF MAGAZINE vol.512 |
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SF BOOK SCOPE /JAPAN |
謎のソフトを軸にゲーム業界の姿をリアルに描出した
松岡圭祐の最新長篇
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先日セガ・エンタープライズから新型家庭用テレビゲーム機「ドリームキャスト」が発売された。わたし自身はテレビゲームを遊ぶ習慣がないので実感が湧かなかったが、朝日新聞の記事によれば、現在はソニーの「プレイステーション」は約四千三百万台、任天堂の「ニンテンドウ64」が約二千万台。家庭用テレビゲーム機の国内での普及率は三世帯に一台を超えるといわれる時代なのだ。そして、それぞれの機種用に多数のソフトが存在するわけだから、その市場規模は空恐ろしい数字となる。
そんな、日本経済と文化に大きな影響を与える存在となった家庭用テレビゲームの世界を舞台にしたのが、松岡圭祐の『水の通
う回路』だ。千葉県の小学生を端緒に、全国規模で子供たちが次々と自殺未遂、発作、事故などに巻き込まれるという異常事態が起こった。何れも黒いコートの男に襲われたのが原因だという。やがて調査の結果
、この子供達に共通しているのは、発売されたばかりの人気ゲームソフト<アクセラ・>をプレイしていることだけだった。
本書のストーリーは、このゲームソフトには子供たちの潜在意識に働きかける何かが隠されているのか、誰がどんな手段で仕組んだことなのかという謎を軸にしながら、ゲーム会社同士の確執と対立。社内の人間関係、夫婦と家族の問題を巧みに盛り込んで展開する。ゲーム業界に戸惑う国会議員や官僚の姿、ビジネスマンに徹しきれない経営者など、急激に成長したこの業界の姿がリアルに描かれている。これだけでもサスペンスに富んだ長篇小説としてお薦めなのだが、本書にはテレビゲームがもつ魅力と同時に、その幻視させる世界への懐疑が底流に存在する。
それは、ちょうど10年前(1988年)に書かれたいとうせいこうの『ノーライフキング』がテレビゲームソフト《ライフキングのヴァージョン・》を解けずに死んだ子供の呪いと都市伝説とをからめて描き出したテーマにも通
じる。それはテレビゲームが人間(特に子供)に意識の変容を迫るメディアなのでわないか、という疑問にも響き合うものである。
東野圭吾の最新長篇『秘密』は、深夜運行の長距離バスの事故によって妻を亡くした男杉田平介の物語だ。実家へ小学生の娘藻奈美を帯同して里帰りした妻直子がバスの転落事故で亡くなった。やがて意識不明だった藻奈美は意識が戻ると、自分は直子だと平助に告げる。事故の衝撃で娘の身体に妻の意識が宿ったのか?
本書は、この奇妙な出来事を中心に夫婦の葛藤や、事故に関わった人間たちのドラマをリーダビリティに富んだ文体で描き、意識の転移という奇跡を前提に、中年女性の意識を持った小学生として人生を再スタートしようとする《妻》と正面
から向き合う《夫》の物語である。
中島らもの最新短篇集『寝ずの番』は、芸人譚の表題作を筆頭にユーモラスでシニカルな作品揃い。通
夜の無礼講がエスカレートする「寝ずの番」三部作と、クローン人間をモチーフした爆笑作「仔羊メリー」。プロレスラー、ギタリスト、CMプランナーを主人公にしたペーソスに富んだ作品など、バラエティーに富んだ構成で楽しめる。
小林泰三の『肉食屋敷』は、本誌の怪獣特集に発表された表題作(SFマガジン初出「脈打つ壁」改題)を筆頭に全四篇を収録した短篇集。個人的な好みで選べば、黄昏時の風景と懐かしい「ウルトラQ」の世界を連想させる「肉食屋敷」。グロテクなまでに生体間移植テクノロジーが日常的に行われ、無法者が徘徊するな別
世界を舞台にした「ジャンク」(異形コレクション・
屍者の行進)がいい。
評者にとって未読であったサイコ・スリラー「妻への三通の告白」とサイコ・ミステリ「獣の記憶」の二篇は、濃厚な文体と巧みな構成が成功している。
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松岡圭祐: |
『水の通う回路』幻冬舎 |
東野圭吾: |
『秘密』文藝春秋 |
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中島らも: |
『寝ずの番』講談社 |
小林泰三: |
『肉食屋敷』角川書店 |
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